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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)674号 判決

本籍

東京都板橋区東新町一丁目二番地

住居

同都世田谷区北鳥山一丁目二三番七号

会社役員

八木伸二

昭和三三年九月二一日生

本店所在地

同都千代田区麹町四丁目四番地

株式会社八伸

(右代表者代表取締役 八木伸二)

右八木伸二に対する所得税法違反、右両名に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、渡辺登出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人八木伸二を懲役一年六月及び罰金一二〇〇万円に、被告人株式会社八伸を罰金三八〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人八木伸二において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人八木伸二に対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人八木伸二(以下、被告人という。)は、東京都港区元麻布三丁目一一番四号第一〇渡辺マンションに当時居住し、塚本産業株式会社の歩合外交員等として不動産売買・仲介業を営んでいたものであり、株式会社八伸(以下、被告会社という。)は、昭和六〇年七月一八日に設立され、東京都千代田区一番町四番地に本店を置き、不動産売買・仲介業等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人が、その代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、

第一  自己の所得税を免れようと企て、仲介手数料、歩合外交員報酬等の収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五九年分の被告人の実際総所得金額が二〇三三万六四一二円で、分離課税による土地の譲渡等にかかる事業所得金額が九五三万三一〇九円あった(別紙一の(1)修正損益計算書及び所得金額総括表参照)のにかかわらず、同六〇年三月一三日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が二四二万五〇六九円で、分離課税による土地の譲渡等にかかる事業所得はなく、これに対する所得税額がすでに源泉徴収された一六万四三〇〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六三年押第七六八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人の同年分の正規の所得税額一二二五万七九〇〇円と右申告税額との差額一二四二万二二〇〇円(別紙一の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

二  同六〇年分の被告人の実際総所得金額が七六七三万九四七〇円で、分離課税による土地の譲渡等にかかる事業所得金額が八三三万八五一五円あった(別紙二の(1)修正損益計算書及び所得金額総括表参照)のにかかわらず、同六一年三月一二日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が三四九三万二三二八円で、分離課税による土地の譲渡等にかかる事業所得はなく、これに対する所得税額が八三八万八一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人の同年分の正規の所得税額三九二八万一三〇〇円と右申告税額との差額三〇八九万三二〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売上等の収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億一一五五万七七九二円で、課税土地譲渡利益金額が三億八一八万円あった(別紙三の(1)修正損益書及び同三の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年一一月二九日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億九一五九万四八六三円で、課税土地譲渡利益金額が七六四八万三〇〇〇円であり、これに対する法人税額が九二一四万一二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二億三三六七万九九〇〇円と右申告税額との差額一億四一五三万八七〇〇円(別紙三の(2)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和六三年三月一六日付(一八枚綴りのもの)供述調書

一  被告人の収税官吏に対する昭和六二年七月二三日付及び同月二九日付け 質問てん末書

一  牛島邦彦(三通、いずれも謄本)及び飯野紘の検察官に対する各供述調書

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本

判示第一全部の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六三年三月一六日付(五七枚綴りのもの)及び同月一八日付各供述調書

一  森紀美子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の領置てん末書(記録三七号)及び昭和六二年一一月一四日付証明書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  仲介手数料収入調査書

2  租税公課調査書

3  水道光熱費調査書

4  旅費交通費調査書

5  接待交際費調査書

6  損害保険料調査書

7  修繕費調査書

8  消耗品費調査書

9  地代家賃調査書

10  減価償却費調査書

11  源泉所得税調査書

一  検察事務官作成の各捜査報告書〔(雑収入について)及び(支払手数料について)と各題するもの〕

一  東京都板橋区長作成の戸籍附票(写)

判示第一の一の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  事務用消耗品費調査書

2  新聞図書費調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書〔(歩合報酬について)と題するもの〕

一  押収してある所得税確定申告書(五九年分)一袋(昭和六三年押第七六八号の1)及び五九年分収支内訳書一袋(同押号の3)

判示第一の二の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  外注費調査書

2  通信費調査書

3  会議費調査書

4  雑費調査書

5  給料調査書

6  青色申告控除額調査書

一  押収してある所得税確定申告書(六〇年分)一袋(昭和六三年押第七六八号の2)及び六〇年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六二年一二月二一日付、同月二二日付(二通)、同月二三日付及び同月二四日付各供述調査

一  野田圭三の検察官に対する供述調書三通(うち二通は謄本)

一  大蔵事務官作成の昭和六二年一一月一三日付証明書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  不動産売上高調査書

2  手数料収入調査書

3  不動産仕入高調査書

4  旅費交通費調査書

5  雑費調査書

6  雑収入調査書

一  検察官作成の電話聴取書

一  検察事務官作成の各捜査報告書〔(手数料原価について)及び(課税土地譲渡利益金額について)と各題するもの〕

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六三年押第七六八号の5)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告人

判示第一の一及び二の各所為につき、所得税法二三八条一、二項、判示第二の所為につき、法人税法一五九条一項

2  被告会社

判示第二の事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

二  刑種の選択

被告人

判示第一の一及び二の各罪につき、いずれも懲役刑と罰金刑の併科、判示第二の罪につき、懲役刑を選択

三  併合罪の処理

被告人

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

刑法一八条

五  刑の執行猶予

被告人

懲役刑につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、不動産の売買・仲介等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、不動産売買の仲介手数料、歩合外交員報酬等の一部を除外したり、架空の外注費を計上するなどして、二年分の所得税合計四三三一万五四〇〇円を免れ、更に、自己が経営する被告会社の不動産収入等の一部を除外するなどして、昭和六一年九月期における同社の法人税一億四一五三万八七〇〇円をそれぞれ免れたというものであって、そのほ脱率は、被告人が約八四・〇四パーセント、被告会社が約六〇・五六パーセントといずれも高率であり、その犯行の動機も、結局、自己が贅沢な生活をしたいとの欲求を満足させるためのもので何ら酌むべき点はなく、所得秘匿の方法も、被告人が取扱った不動産売買にかかる仲介手数料収入等を除外するために、手数料を支払って知人名義の架空領収書を書いてもらったり、被告会社の売上を除外するため、いわゆる領収書屋の売買契約書を入手するなど大胆、巧妙であり、犯情は悪質というほかなく、被告人らの刑事責任は軽視することができないといわなければならない。

しかしながら、被告人は、本件発覚後全面的に犯行を自白し捜査に協力していること、自己及び被告会社の修正申告を行った上、本税、延滞税及び重加算税等を完納し、地方税についても納付したこと、被告人は本件犯行を深く反省し、税理士の指導のもとに税務処理の適正化の体制を整え、今後は正しく申告納税する旨誓っていること、被告人はこれまで真面目に働き、同種前科もないことなど、被告人らに有利な事情も認められ、これらに被告人の経歴、年齢等をも総合勘案すると、被告人らに対し、主文掲記の刑をもって臨むのが相当であり、特に、被告人に対しては、今回に限り相当期間懲役刑の執行を猶予し、社会内で自力更生させるのが相当であると判断した次第である。

(求刑 被告人につき懲役一年六月及び罰金一二〇〇万円、被告会社につき罰金四〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 中野久利 裁判官 中村俊夫)

別紙一の(1) 修正損益計算書

八木伸二

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

No.1

〈省略〉

別紙一の(2) 脱税額計算書

昭和59年分 八木伸二

〈省略〉

別紙二の(1) 修正損益計算書

八木伸二

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

No.1

〈省略〉

別紙二の(2) 脱税額計算書

昭和60年分 八木伸二

〈省略〉

別紙三の(1) 修正損益計算書

株式会社 八伸

自 昭和60年10月1日

至 昭和61年9月30日

〈省略〉

別紙三の(2) 脱税額計算書

株式会社 八伸

自 昭和60年10月1日

至 昭和61年9月30日

〈省略〉

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